会社側の残業代についての対応策
残業代そのものを直接抑制する方法としては、以下のようなものが考えられます。
1 変形労働時間制の導入
労働時間は1日8時間、週40時間以下と決められていて、これを超える時間を労働させる場合は、
時間外労働となるのが原則です。時間外労働になれば当然時間外手当の問題が生じてきます。
しかし、業態によっては上記法定労働時間が業務にそぐわない場合があります。
例えば、1ヶ月のうち、後半は忙しいが前半はほとんど仕事がないくらい暇だとか、あるいは1年のうち
夏は忙しいけど冬は暇だとかいう業種です。また、24時間をカバーする交替勤務制のところは、
1日の勤務時間が8時間を超えることが必要不可欠な場合もあります。
このような場合、変形労働時間制を採用することで、法定労働時間を超えて
就業させることができます。これは使用者にとって有利な制度ということができます。
この変形労働時間制には、1か月単位、1年単位、1週間単位のものがあります。
2 残業代を月額賃金の中に含ませる(定額残業制)
多くの残業時間が発生しているが、毎月の残業代計算が煩雑であるので残業代を定額としたい場合、法所定の割増賃金に代えて一定額の手当を支払う制度です。
この定額残業制については、裁判例上、次の要件を満たす必要があると考えられます。
1通常の賃金部分と時間外・深夜割増賃金部分が明確に区別できること
2込みとなる時間を超えるときは、不足分を支払う合意がなされていること
(最判平6.6.13高知県観光事件、東京地62.1.30小里機材事件、最判昭63.7.14他)
ワンポイント
この制度を実際に導入する場合は、給与の中に残業を何時間分含めているか、そして、含められている残業時間を超えて働いたときは、残業代を別途支払う旨就業規則・雇入通知書に記載しておくべきです。
この点を押さえていないと、後々残業代を請求された場合、大変な事態となります。
3 事業場外のみなし労働時間制の導入
これは、従業員が事業場外で業務に従事している場合で、労働時間を算定しにくいときに
所定労働時間だけ労働したものとみなす制度です(労基法38条の2)。
このみなし制は、取材記者や外勤営業職員などの常態的な事業場外労働だけでなく、出張等の臨時的な事業場外労働も対象となります。
また、労働時間の全部を事業場外で労働する場合だけでなく、その一部を事業場外で労働する場合も含みます。
4 在宅勤務によるみなし労働時間制の導入
近年、インターネットや情報処理を中心とした技術革新により、IT(高度通信情報ネットワーク)化が急速に進んでおり、パソコンや端末等のVDT(Visual Display Terminal)が家庭や職場を問わず広く社会に導入され、職場環境や就業形態等についても大きく変化している状況にあります。
このような中で、情報通信機器を活用して、労働者が時間と場所を自由に選択して
働くことができる働き方であるテレワークという新たな就労形態が可能となりました。
厚生労働者は、「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」を定め、
その後改訂し、在宅勤務等の適切な導入と労務管理のあり方を示しています。
5 裁量労働制(専門業務型・企画業務型)の導入
これは、一定の専門的・裁量的業務に従事する労働者について、遂行の手段・時間配分の決定等を
労働者の裁量に委ね、労働時間については「みなし労働時間」を定めて労働時間を算定する制度です。
この裁量労働制には、
1専門業務型裁量労働制
2企画業務型裁量労働制
の2種類があります(労基法38条の3,38条の4)。
6 振替休日の利用
これは、どうしても従業員に休日に働いてもらう必要が出てきた場合に有効です。
本来、休日出勤の場合、休日割増手当(法定休日の場合3割5分増し)を払わなければなりませんが、
休日の振替措置(振替休日)を行うことで、この割増賃金を支払う必要はなくなります。
ただし、以下の要件をみたす必要があります。
1 就業規則等で休日の振替措置をとる旨を定める
2 休日を振り替える前に、あらかじめ振替日を決めておく
3 法定休日(毎週1回以上)が確保されるように振り替える
この要件のどれかが欠ければ、それは振替休日ではなく、「代休」になってしまいますので、ご注意ください(「休日労働」の割増賃金35%を支払う必要があります)。
週休1日制の場合、休日を別の週に振替えると法定休日が確保できないため、「休日労働」になってしまいます。
週休2日制の場合は、出勤日と同じ週に振替休日を取れずとも1日の法定休日が確保されていれば「休日労働」は発生しません。